昔は駅前には必ずといっていいほど喫茶店があった。各駅しか停まらない小さな駅にも喫茶店はあった。急行が停まるような駅だと純喫茶もあった。さらに特急が停まるような駅には同伴喫茶もあった。同伴喫茶の話をするのはやぶさかではないが、話が横道に大きくそれていきそなうので、同伴喫茶の話はまたということにして、話を元に戻すと、えーと、なんだっけ?
そうそう駅前の喫茶店の話。先日の土曜日、埼玉県久喜市の栗橋に行った。当日は、駅前で静御前まつりというイベントをやっていて、栗橋駅前はにぎわっていた。静御前や源義経に扮した人たちが平安装束(へいあんしょうぞく)に身を包み、駅前商店街を練り歩く姿は、まさに絵巻の世界。栗橋駅前は平安・鎌倉時代にタイムスリップしたかのようだった。
時計を見ると午後1時過ぎ。おなかがすいた、と思ったら「珈琲茶房ハーモニー」という文字が目に飛び込んできた。駅前に並んでいるお店の中から飛び込んできた。お~、あの店舗のたたずまいは、まさに昔は必ずといっていいほど駅前にあった昭和のにおいのする昔ながらの喫茶店だ。懐かしい。珈琲茶房ハーモニーで昼食をとることにした。
席に座る。お冷やとおしぼりが運ばれてきた。「今日の日替わりランチは海老カツカレーです。コーヒーか紅茶付きのセットにすることもできます」とのこと。海老カツカレーというのは珍しいな、ということで日替わりランチの海老カツカレーを注文。アイスコーヒーも付けてもらった。
四人掛けのテーブル席が6席。それにカウンターに4席。テーブル席は4席埋まっている。カウンター席には常連客と思われる70代ぐらいの男性がひとり、ボクの隣のテーブル席には、これまた常連客らしい60代後半から70代ぐらいの男女四人が座っていた。壁際の席ではマイク眞木に似た初老の男性がひとりでコーヒーを飲んでいる。お店の雰囲気も昭和だがお客さんたちも昭和世代だ。
サラダが運ばれてきた。続いて海老カツカレーとみそ汁が運ばれてきた。さっそく海老カツをひとくち。衣はサクサク。中身はプリプリ。サクサク、プリプリという食感が海老カツの魅力だ。カレーもコクがある。喫茶店のカレーというよりも洋食屋のカレーに近い。老舗洋食屋のカレーといってもおかしくない。
ライスはパセリライス。白と緑の色合いがいい。ご飯も美味しい。新米を使っているそうです。福神漬けもちゃんと添えられている。そしてみそ汁付きというのがこれまたいい。昭和世代はやっぱりご飯にはみそ汁が付いてないとしっくりこない。どの料理も真心をこめてていねいに作っている、という店主の思いが伝わってくる。
このお店はいつからやっているのか、おかみさんに聞いたところ昭和47年からやっているとのこと。昭和47年というと、ボクがちょうど高校二年生のときだ。新御三家(郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎)の時代ですね。おかみさんは元祖・御三家(橋幸夫・西郷輝彦・舟木一夫)の世代かな。
食後のアイスコーヒーを飲みながらカウンターに目をやると、サイフォンが置かれている。このお店(珈琲茶房ハーモニー)では、サイフォンでコーヒーを淹れてくれるのか。おかみさんかサイフォンで淹れてくれるコーヒー飲みたかったな。また来るか。
会計に向かう。日替わりランチは700円。飲み物付きだと880円。安いな~。ボクはアイスコーヒーを付けてもらったので880円を支払う。レジの後ろの壁に赤塚不二夫の色紙が飾ってあった。赤塚不二夫もこの店に来たようだ。
世の中は、喫茶店がカフェとなり、コーヒーにカフェラテが登場し、スパゲティがパスタと名前を変え、サイフォンコーヒーのお店が消えていく中、昭和のスタイルを変えずに栗橋駅前で喫茶店を続けている珈琲茶房ハーモニー。時代の流れに合わせる必要なんてありません。色紙の赤塚不二夫も言っている。
珈琲茶房ハーモニーは、これでいいのだ――