愛媛県の名湯・道後温泉(どうごおんせん)。今回ご紹介するのは道後温泉に宿をかまえて390年の歴史と伝統を誇る ふなや。道後温泉の中でも老舗中の老舗。皇室をお迎えした回数も10回以上という名旅館です。
現在、ふなやのお部屋は全58室。古きよき旅館の趣を残した心休まる和室たげではなく、モダンで洗練された洋室もあります。
老舗であることにあぐらをかかずに絶えず時代の要求に耳を傾ける真摯(しんし)な姿勢が390年の歴史を育んだ理由です。宿のバリエーションか豊富なので、あらゆる世代のお客様が満足してくれるといいます。
自慢のお風呂は源泉掛け流しの道後の湯。御影石(みかげいし)と古代檜(こだいひのき)をふんだんに使った贅沢な大浴場が旅人の疲れを癒してくれます。露天風呂もあって日帰り入浴も可能です。
そして、ふなやの格式高さを象徴しているのが、こちら(上の写真)の天皇の間。昭和25年(1950年)に昭和天皇が泊まられた部屋を移築して展示室として保存。いにしえの優雅さと気品が漂います。
昭和天皇皇后両陛下。そして現在の天皇皇后両陛下。さらに皇太子と雅子さま。そして秋篠宮さまと紀子さま――。10回以上、皇室をお迎えしてきた宿だからこそ知っている、おもてなしをする側のあれやこれや。
宮内庁から宿泊の打診があるのが約1年半前。宿泊の依頼を受けると、そこから建物や施設に不備がないように点検や修理を行ないます。長い準備期間をへて、いろいろ皇室のみなさまをお迎えする日――
じつは関係者の人数がたいへんなんです。皇宮警察(こうぐうけいさつ)や侍従(じじゅう)さんが約20名。地元警察や一般関係者も含め150名ほどが訪れ、全館貸し切り状態で宿泊されます。
そして、平成5年(1993年)に天皇皇后両陛下が実際に宿泊されたお部屋がこちら(上の写真)。4室150平米ある豪華ロイヤルスイートルームです。
寝室にあるツインのベッドは国内メーカーの特注品。昭和天皇はベッドがお好みだったことから、以来、ふなやでは、皇室の方の寝室にはベッドを採用しています。
寝室の先には広々としたリビング。イスやテーブルなどの家具は、ベッド同様、すべて国内メーカーの特注品。リビングダイニングのさらに奥には10畳と6畳の和室が。京都迎賓館も手がけたという数寄屋大工の匠が腕によりをかけた気品ある日本間です。
そして部屋に付いているのは、ゆったりとした檜風呂(ひのきぶろ)。もちろん道後温泉の源泉掛け流し。豪華150平米のロイヤルスイートルーム。ふだんは一般のかたでも利用できます( 宿泊プラン )
ふなやの庭にひっそりと生えている葵苔(あおいごけ)という植物。じつは昭和天皇が発見されて宿に教えてくれたもの。この地ではたいへん珍しい苔で、昭和天皇とのかかわりから、その名をいただいて、ふなやのレストランは「葵苔」と名づけられました。
そして道後温泉ふなやの料理を担当するのが料理長の久保田さん。これまで六度、皇室の食事を担当してきた久保田さん。めったにできない経験が料理人としての勲章だと言います。
そんな料理長が作る会席膳のお造りは、瀬戸内海の鯛のほか、伊勢海老とアワビを使って華やかさを演出。どれも味は折り紙つき(料理は季節や仕入れによって替わります)
お吸い物は、スッポンでとった出汁(だし)に瀬戸内で獲れたオコゼの身の厚い部分だけを合わせるという贅沢さ。炊き合わせには鯛と蕪(かぶ)。まるで瀬戸内海の潮風が香るようなどこか懐かしい味わいです。器も楽しい酢の物は、ヒラメの昆布〆(こぶじめ)や塩蒸ししたアワビが食欲をそそります。
地元の素材にこだわりながら遊び心を忘れない料理づくり。それが料理長・久保田さん考えるおもてなし。皇室をお迎えするときと変わらない料理長のまごころこもった料理の数々。まさに極上のおもてなしです。
皇室をお迎えすることは最上のおもてなしを追求すること。それが名旅館への道につながっています。すべてのスタッフが極上のおもてなしとは何なのかを追求する姿勢。これこそが、皇室が宿泊される ふなや の魅力です。