松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅に出たときに、石川県の山中温泉に八泊九日の長逗留をし、「山中や菊はたをらぬ湯の匂い」という賛辞の句を詠んでいます。山中温泉は、当時すでに名湯と謳われていましたので、松尾芭蕉も長旅の疲れが癒されたのではないでしょうか。
『おくのほそ道』で山中温泉に宿泊したときの原文の冒頭は「温泉に浴す。その効能有馬に次ぐといふ。山中や菊は手折らぬ湯の匂」と書かれています。読み方は「いでゆによくす。そのこうのう ありまに つぐという。やまなかや きくはたおらぬ ゆのにおい」
意味は「山中温泉に入った。お湯の効き目は(兵庫県の)有馬温泉に次ぐといわれている」。そして「山中や菊は手折らぬ湯の匂」という俳句の意味は、「山中温泉に入って湯の香(か)をかぐと、寿命が延びる思いだ。あの長寿延命の効果絶大という菊を手で折り取って、その香をかぐ必要などまったくない」(俳句の意味は『おくのほそ道』(全)角川書店編 ビギナーズ・クラシックス日本の古典より引用)
山中温泉には、松尾芭蕉が泊まった宿(泉屋)は残っていませんが、泉屋に隣接していた湯宿を修復し、「芭蕉の館」として、松尾芭蕉が書き残した「やまなかや菊は手折らじゆのにほひ」の掛軸(真筆)や俳諧資料などが展示されています。