昔から多くの文人墨客が訪れ、熱海や箱根と並び称される伊豆修善寺温泉。伊豆の小京都といった風情ある趣が今も旅人に愛されています。今回は、昭和天皇がご幼少のころ過ごされた修善寺温泉の名旅館 湯回廊 菊屋(ゆかいろうきくや)をご紹介します。
修善寺にある老舗旅館の中でもひときわ異彩を放っているのが湯回廊菊屋。創業380年の老舗で玄関の正面には菊のご紋が…
昭和天皇をはじめ皇室も宿泊された宿だけに玄関からすてに風格があります。
菊屋は、清流・桂川の対岸にあるので、300坪という広大な庭の中に点在する棟が廊下でつながっています。まさに湯回廊。風流に川の流れを眼下に眺めながら客室へ
こちらのお部屋(上の画像)が昭和天皇がご幼少のころ滞在された菊の棟。昭和天皇が五歳と九歳のときに過ごされたお部屋です。床柱に使われているのは黒柿(くろかき)。たいへん珍しい名木で、黒柿を使うことは、和の建築で最高のぜいたくと言われています。
本間八畳の隣には寝室があります。幼少期の昭和天皇が滞在されたころの雰囲気を残した落ち着いた客室は、現在も特別室という名ではありますが、どなたでも 宿泊ブラン に応じて利用することができます。
この部屋のためだけに造られた庭を眺めながら、はるか明治の風に思いを馳せられる優雅なひとときを過ごすことができます。
菊屋の自慢は伊豆の名石をふんだんに使った内風呂(大浴場)。時代の変遷を見つめながら多くの旅人を癒してきた湯船のそこかしこに刻まれているのは菊の紋章。
明治39年と43年の二回、ご幼少の昭和天皇が菊屋に滞在されたのは、寒さを避ける「ご避寒」(ごひかん)のためでした。当時、皇室は、熱海にも御用邸がありましたが、修善寺温泉のお湯が、あたりがやわらかいということで、選ばれたといいます。
歴史の重みを大切にしながら菊屋は時代に合わせたしつらえと癒しも追求しています。あまり使われなくなった大宴会場は、格式高い格天井(ごうてんじょう)はそのまま活かして、お風呂の付いていないリーズナブルなお部屋へと変身(上の写真)
伝統ある内風呂(菊風呂)のほかにも今はなくてはならない露天風呂も造りました。四季折々の自然が移ろう自慢の庭園を眺めながら極上の湯浴みが楽しめます。
温泉につかったあとは女性に人気のアロママッサージ。アロマオイルと温泉の相乗効果で身も心もリフレッシュできます。
湯回廊・菊屋の夕食です。夕食は食事処でいただきます。月ごとに替わる料理は旬を大切にした前菜から。彩りを添えるのは菊をかたどったサツマイモ。お造りは伊豆近海で獲れた魚のお刺身。天城産のワサビを自分でおろしていただけば、辛みの中に甘さと風味が感じられて、お刺身の味もまた格別です。
焼き物以降は料理を選べるようになっているのが特徴。
会席コースですが、洋皿もあって、これもチョイスが可能という、なんともうれしい老舗旅館のおもてなしです。
前菜からデザートまで、まるで高級料亭に出かけたような満足感です。
朝食は和食または洋食。お好きなほうをひとりずつ選べます。
敷地内には幼少期の昭和天皇お手植えの松が菊屋の行く末を見守ってくれています。