その昔、お伊勢参りをする人たちが伊勢神宮を参拝する前に身を清める場所として立ち寄った三重県の景勝地・二見浦(ふたみうら)。海沿いを歩くと大小の岩をしめ縄で結んだ日の出スポットとしても知られる夫婦岩(めおといわ)があります。
二見浦・夫婦岩の絶景を望むように、この地には江戸時代から多くの宿が集まりました。今回ご紹介するのは、二見浦に宿を構えて270年、創業は亨保年間(1716-1736)という老舗旅館 朝日館(あさひかん)
夫婦岩へは徒歩12分。夫婦岩の日の出を拝むのにも便利なお宿です。
宿に残されている宿帳には、江戸幕府最後の将軍(15代将軍)徳川慶喜(とくがわよしのぶ)が、明治8年に宿泊されたという記録も残されています。
上の写真は朝日館の別館・清風荘にある貴賓室・雲井(くもい)。こちらの貴賓室・雲井の間は天皇や皇族が宿泊したお部屋。見上げれば、もっとも格式の高い格天井(ごうてんじょう)。そのうえ、金箔が施されています。
貴賓室・雲井の壁には、凝りに凝った組子細工(くみこざいく)。床の間には美しい螺鈿細工(らでんざいく)が施されています。漆の厚みが1センチほどあり、これを造るだけで約10年かかっているそうです。この部屋そのものがまさに芸術品です。
伊勢二見浦・朝日館の夕食です。もてなしは御師(おんし)の御膳(ごぜん)。御師とは、江戸時代にお伊勢参りの参宮客の食事や宿の世話をした人のことで、今でいう旅行代理店。御膳とは当時の御師がもてなした料理。
通常のお宿では、一汁一菜(いちじゅういっさい)が普通だった江戸時代、御師の宿では、豪華な料理のもてなしがあり、鶴のお肉や亀のお肉を使った料理も出されていたそうです。鶴亀料理といってもお殿様が食べる料理ではありません。庶民が食べた一生に一度のぜいたくな料理だったのです。
朝日館では、当時の御膳を再現しています。といっても今は鶴の肉は食べられませんので、鶴の代わりに合鴨(あいがも)、亀の代わりには、地元のブランド牛・松阪牛の牛鍋がいただけます。
おいしい伊勢の味覚を味わいたい…。そんな庶民の思いが江戸時代のお伊勢参りブームを盛りあげたのです(料理の内容は季節や 宿泊ブラン によって替わります)