伊豆半島のほぼ中央、天城連山を望む天城湯ヶ島温泉(あまぎゆがしまおんせん)。川端康成の小説・伊豆の踊子の舞台にもなった情緒あふれる温泉地。天城三景から流れる清流・狩野川(かのがわ)沿いには、文豪たちが愛した旅館が軒を連ねています。
今回ご紹介するのは、天城湯ヶ島温泉にたたずむ 落合楼 村上(おちあいろう むらかみ)。創業明治七年。一泊二日の大人の一人旅におすすめしたい老舗旅館です。
途中、昭和八年に建て替えられ、建物の棟数・全部で七棟が国の登録有形文化財に登録されています。敷地の面積は三千坪。その敷地内の中にお部屋の数は15室しかありません。
狩野川の清流の脇に立っているので、川のせせらぎを聞きながら過ごしたり、敷地内を散策してゆっくりと過ごすことができます。
玄関に一歩入ると美しい欄間(らんま)が出迎えてくれます。その繊細さは当時の職人の息づかいを感じる見事な作品です。
さらに廊下のガラス窓は釘をいっさい使わずに作られたもの。美しい花柄の組子細工(くみこざいく)からは文化財の風情がただよいます。
チェックインの手続きは、まばゆい日差しが降り注ぐロビーで行ないます。さらに、チェックインのさいには、地元の梅で作った梅ジュースでのおもてなしが。ひと息ついたら客室へ
こちらのお部屋は広さおよそ70平米の数寄屋造りの和室。組子細工の障子や桐の殻が刻みこまれた欄間が装飾された品格の高い客室です。
お部屋の奥には昭和モダンな洋風の寝室。明かり窓がステンドグラスになっていて、客室の品位をいちだんと高めています。
こちらのお部屋は外国人観光客にも人気があるという椿一(つばきいち)。最大の魅力は源泉かけ流しの足湯付きテラス。清流・狩野川の景色を楽しみながら、滞在中、いつでも足湯に入れるぜいたくなお部屋です。
客室のタイプは 宿泊プラン の中から自由に選べます。
およそ三千坪という広大なの敷地をもつ落合楼村上。対岸に渡る吊り橋の先にはちょっとした遊び心があります。
こちらは狩野川の景色とせせらぎを間近で楽しめる古民家風の建物。大自然を感じながらソファーでゆったり読書を楽しむのもおすすめです。普段の喧噪から離れ、自分の好きなことに時間を費やすのも一人旅の醍醐味です。
お宿の離れにある貸切露天風呂はチェックイン後の予約制。その中は一人でつかるのはもったいないほど大きい造り。無色透明のお湯は、温泉ソムリエが美人の湯と呼ぶほど保湿性が高く、常連のお客さまにも好評なんだそうです。
お風呂で体がほてったあとはラウンジで夕食前のビールを一杯いただくのもおすすめ。ラウンジは東北の古民家を移築したという建物。立派な梁(はり)が天井を巡る広々とした空間です。
日もとっぷりと暮れ、お楽しみの夕食の時間です。落合楼村上ではお客さまの要望に合わせて、お部屋食・個室食事処と、場所を選んで食事をいただくことができます。もてなしは厳選食材と月替わりの献立が売りの本格会席料理。
先付(さきづけ)はね静岡産のレタスで車エビ・切り干し大根を包み、料理長が二日間、丹精込めて作った自家製コンソメジュレが味の決め手という一品(ひとしな)
続いては、伊豆の海の差をふんだんに使ったお造り。天城のわさびとともにいただきます。
さらにお宿こだわりの演出が。料理長みずからが料理を運んでもてなしてくれるんです。いただくお料理は、蒸した静岡産の大サザエに伊豆のニューサマーオレンジを使った、お酢で味付けした一品。
料理は季節や仕入れによって異なります。
おいしいお料理をいただいたあとはとっておきの場所でひと休み。こちらは館内にある図書室。まるで昭和初期にタイムスリップしたかのように思える空間です。文豪の小説を手に、ここで有意義な時間を過ごすのも粋な夜の過ごし方。
天城の里でたっふりと癒された翌朝。朝一番に訪れたいのが、30人ほどがゆうに入れるほど大きい洞窟露天風呂・天狗の湯。その名の由来は、かつて天城の天狗がひと目を忍んで訪れていたからと伝えられています。
朝のお風呂を堪能したあとは朝食の時間。料理長が腕をふるった色とりどりのごちそうがテーブルを囲みます。なかでもいちばんのこだわりは味噌汁。出汁(だし)の味を極限まで味わってもらうために、あえて具を入れないという熱い思いがこもった一杯です。
10時のチェックアウトをすませたら、有形文化財を巡って、宿のご主人の詳しい話が聞ける館内ガイドツアーは、ぜひとも体験してほしいプログラム。昭和八年から一枚も割れずに残っているガラス窓など、驚きと感動の連続です。
ガイドツアー終了後、別料金になりますが、伊豆のこだわり食材を中心に一汁三菜をテーマにした昼食をいただくことができます。
伊豆・天城の山中にたたずむ老舗旅館・落合楼村上。国有形文化財に登録されている美しいお宿で、極上のぜいたくな時を過ごすことができます。
天城湯ヶ島温泉 落合楼村上